2014年12月18日木曜日

第12回 コースミーティングを開催しました。




日米の認知症における疫学研究の文献検索
 

認知症患者は世界的規模で増加傾向にある。認知症は多様な原因で発症し得るが、その多くは成因が未だに解明されていない。このような状況の中で認知症の有用な予防対策の決定には、疫学調査によって認知症の実態を理解し、その規定因子を明確にする必要がある。認知症の疫学調査に重点を置いている研究を日米から1つずつ選んだ。1つは米国のHAAS(Honolulu Asia Aging Study)であり、もう1つは日本の久山町研究である。方法としては、HAASと久山町研究のデータに基づいて調査された英語論文を元に検索を行って両者の研究で得られた知見を比較検証した。この2つの研究の比較検証を本ミーティングで発表した。
それぞれの性・年齢標準化有病率(久山町研究では男女の被験者、HAASでは男性の被験者のみ)の単純な比較をすると、日本在住日本人ではハワイの日系米国人よりも認知症が少ないように見える。このことから、もともと日本人は米国人より認知症になりにくいが、米国の生活環境では認知症が増加する、と言えるのかどうかであるが、厳密な比較を試みた(認知症の診断基準や性・年齢構成、基準集団を同じにして比較した)文献は私の知っている範囲で見つけることはできなかった。これを科学的な方法で正確に比較しても本当にそうであるか、という疑問を今回の文献検索で感じた。今後は、久山町研究やHAAS、他の文献で明らかになった有病率に関する多くの文献を検索したい。
また、規定因子については次のような観点でまとめた。
    危険因子(糖尿病と中年期の高血圧)や予防因子(運動)は認知症の罹患率にどの程度影響しているのか、についてのコホート研究の知見を日米で比較した。糖尿病に関して久山町研究は、2型糖尿病と脳血管性認知症とは無関係であると報告したが、HAASや他の文献ではアルツハイマー型認知症と同様に有意な相関関係にあった。運動では一定の運動量以上は有意な負の相関関係にあるので、今後は最適な運動量と種類に研究の焦点を絞る必要があると考えた。
    HAASや久山町研究によると、中年期の高血圧は脳血管性認知症と強く相関していた。一方、HAASは中年期に高血圧があるとアルツハイマー型認知症の罹患率も上昇していると報告した。アルツハイマー型認知症と中年期の高血圧は、発生機序の上で関係があるのかどうか(アルツハイマー病の病態はニューロン内の変性タンパク質の蓄積だが、その機序に高血圧が関係するのかどうか)は不明なので、この点を今後、疫学的に追求したい。

                              全 泰佑第4学年】