2015年11月30日月曜日

第112回支援センターセミナー開催のお知らせ

 第112回実験実習支援センターセミナーを、下記の通り開催致します。


                記


 ■ 演 題: 沖縄県におけるヒトゲノム研究の意義と今後の展望

 ■ 演 者: 前田 士郎(琉球大学大学院医学研究科先進ゲノム検査医学講座教授) 

 ■ 日 時: 平成27年12月10日(木)14:30~

 ■ 場 所: 基礎研究棟2階 教職員ロビー


<講演要旨>
2003年にヒトゲノムプロジェクトが完了し、30億文字(30億塩基対)におよぶヒトゲノム配列のほぼ全容が明らかにされ、その後、さらなるゲノム情報の整備および革新的技術開発により、ヒトゲノム全域にわたり生活習慣病発症に関わる遺伝情報を探索すること(ゲノムワイド関連[相関]解析:genome-wide association study [GWAS])が可能となった。このGWAS導入後、生活習慣病のゲノム研究は飛躍的に進歩し、2型糖尿病では現在までに100カ所以上の疾患感受性遺伝領域が同定されている。
現在、ゲノム情報を利用した疾患発症予測、さらには個別化予防の試みもなされているが、現時点でのゲノム情報では、それぞれの疾患の遺伝的要因を最大で一割程度しか説明できないとされている。得られているゲノム情報は臨床応用のためには未だ不十分であり、ゲノム情報単独では全人口の5%程度のハイリスク群を抽出できるのみである。さらに、個々の領域が如何にして疾患感受性に寄与するかは殆ど明らかとなっていない。従来使われてきた個別化医療という言葉は、オーダーメイド医療あるいはテーラーメイド医療、英語ではpersonalized medicineとも呼ばれてきた。一人一人に最適の治療法、予防法をゲノム情報を基に多くの選択肢の中から個別に選択して提供していこうというコンセプトであるが、一方でこの概念では医療コストの上昇も懸念される。さらに、疾患感受性機構が想像以上に複雑であることが明らかとなってきた事から、より現実的な概念に変更されようとしている。
最近、米国を中心に、precision medicineという言葉が使用されるようになってきている。各々の疾患についてゲノム情報により患者群をサブグループに分類し、各グループについて適切な治療法、予防法の構築を目指すという概念である。そのためにはまず全ゲノムシーケンスなどによるゲノム情報、エピゲノム、メタゲノム解析等を含めた環境要因、生活習慣(ライフスタイル)を総合的に解析していく事が必要と考えられている。
一方で、遺伝的背景は人種、地域により異なっており、特に島嶼県である沖縄県では独特の遺伝背景がありメタボリック症候群をはじめとした生活習慣病の罹患率も高いことが示されている。沖縄県の健康長寿復活のためには、沖縄県民および沖縄各地の住民それぞれの特徴(遺伝要因と環境要因)を明らかにする必要があり、今後、沖縄県民における、大規模な遺伝因子、環境因子の統合解析を行うことで沖縄県民の健康長寿復活に貢献することが期待される。

◆本セミナーは、生化学・分子生物学講座 再生・修復医学部門・実験実習支援セン
ターの共催で開催いたします。

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 本セミナーは、大学院博士課程の講義として認定されています。


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※「第112回支援センターセミナー開催のお知らせ」より転載。

<学会発表>第74回日本公衆衛生学会総会

筆頭演者名     大橋 瑞紀

学年         第6学年

所属講座      公衆衛生学
 
指導教員      三浦 克之教授

演題タイトル    日本国民の性・年齢階級,居住地域別の一日の強度別身体活動の比較
            :NIPPON  DATA2010

学会名       第74回日本公衆衛生学会総会

開催地       長崎県長崎市

開催日       平成27年11月4日(水曜日)~11月6日(金曜日)

2015年11月18日水曜日

第17回コースミーティングを開催しました。

「細胞遊走因子ケモカインCXCL14の血球系培養細胞に対する影響」

ヒトの免疫系が正しく機能するために必要な白血球の遊走には、ケモカインというタンパク質が大きく関与している。本研究で解析を行うCXCL14は、同じCXCファミリーで多彩な現象に関与するCXCL12が持つ細胞遊走活性を、そのレセプターであるCXCR4に競合的に結合することで阻害すると報告されている。しかし、その反証となる結果も別のグループから報告されていて、これまでのところCXCL14に特異的なレセプターは同定されていない。したがって、CXCL14がどのような機能を持つのか未だ正確には解明されていない。そこで本研究では、CXCL14による刺激によって引き起こされる細胞内の反応を見出すことを目的とした。最初の試みとして、由来の異なる3種類の細胞株(ヒト骨髄性白血病細胞株K562、ヒトT細胞性白血病細胞株Jurkat、ヒトB細胞性白血病細胞株BALL-1)を用いて、2種類の方法(細胞遊走活性の定量化と細胞内F-actin形成の定量化)でCXCL14が細胞応答を引き起こすか検討を行った。まず、細胞遊走活性を調べたところ、CXCL14はJurkatとBALL-1の運動能を抑制した。また、JurkatとBALL-1に対してCXCL12が示す有意な細胞遊走活性はCXCL14が共存した場合に、促進されることが明らかとなった。次に、細胞内F-actinの定量化実験では、CXCL14はJurkat、BALL-1細胞、K562の細胞内のF-actin量を増加させた。これらの結果から、CXCL14が数種類の細胞株に対して、細胞の運動能を抑制する可能性、CXCL12による細胞遊走を調節する可能性、細胞内のF-actinの重合促進あるいは脱重合抑制にはたらく可能性が示唆された。引き続きF-actinの重合や脱重合に関与するタンパク質のリン酸化や、細胞の形態変化に及ぼすCXCL14の影響についての解析を予定している。また、他の細胞種を用いた検証についても順次行う予定である。

                                            田中 雄也【第3学年】