医学総合特論パイオニアセミナー・第107回支援センターセミナーを、
下記の通り開催致します。
■ 演 題:「遺伝子改変マウスを用いた癌化の分子機構の研究」
■ 演 者: 井上 寛一(滋賀医科大学病理学講座微生物感染症学部門准教授)
■ 日 時: 平成26年7月14日(月)17:40〜19:20
■ 場 所: 臨床講義室1
<講演要旨>
私達は癌の発生と悪性化の分子機構を明らかにするために、新しく分離した
癌遺伝子や癌抑制遺伝子の働きを分子生物学、細胞生物学や遺伝子改変マウス
の手法を用いて研究しています。これまでの研究から、癌の発生とその悪性化
には細胞増殖だけでなく、アポトーシスやオートファジー、細胞のエネルギー
代謝などの制御が重要な役割をはたしていることわかってきました。今回はこ
れらの研究の中から我々が新規に分離したDrs癌抑制遺伝子とalternative splicing
によって生じる新しいタイプの癌遺伝子Cyclin D1bについて、これらの遺伝子
が癌化の過程でどのような役割を果たしているかについて紹介します。
Drsは大腸腺癌、肺腺癌、前立腺癌など様々なヒト悪性癌組織において高頻
度でそのmRNAの発現抑制が起こっています。また、我々が作製したDrsノック
アウトマウスではその約30%にT細胞リンパ腫、肺腺癌、肝癌などの悪性腫
瘍が発生することから、Drsは確かに生体内で癌発生に対して抑制遺伝子とし
て働くと考えられます。さらにDrs蛋白がアポトーシス誘導蛋白ASYと結合し
ヒト癌細胞にアポトーシスを誘導することやオートファジーに関わるRab24と
も結合しオートファジーの制御にも関与していることも見出しました。また癌
細胞の特徴である好気的条件下でも解糖系が亢進する「ワールブルグ効果」の
導入にもDrsが重要な働きをしていることもつきとめました。 Cyclin D1bは
正常組織にはほとんど発現していませんがヒトの膀胱癌、前立腺癌など特定の
癌の組織や癌細胞株で高率で発現していることがわかっています。我々はこの
cyclin D1bを発現するトランスジェニックマウスを作製することにより、この
遺伝子が実際に生体内で癌遺伝子として働き直腸腫瘍の発生に関与することを
明らかにしました。またその分子機構としてCyclin D1bが細胞増殖のシグナル
伝達因子であるErkとAktを活性化することも見いだしました。
◆本セミナーは大学院博士課程の講義として認定されています。
※「医学総合特論パイオニアセミナー・第107回支援センターセミナー開催のお知らせ」より転載。