第106回支援センターセミナーを、下記の通り開催致します。
■ 演 題: 第21回解剖学セミナー
「交通事故から母児を守る
-妊婦に対するシートベルト着用の有効性について-」
■ 演 者: 一杉 正仁(滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授)
■ 日 時: 平成26年5月21日(水)16:30~17:30
■ 場 所: 基礎研究棟2階 教職員ロビー
<講演要旨>
道路交通事故は大きな社会問題の一つである。世界全体では毎年約130万
人が交通事故で死亡し、約5000万人が負傷している。わが国では年間に交通
事故で5000~7000人以上の妊婦が負傷、20~40人以上が死亡し、160以上の
胎児が死亡していると推計される。少子化社会である日本では、子供のみな
らず胎児の安全を守ることも社会的課題である。
自動車乗員の安全装置として3点式シートベルトが知られている。一部の
国民は、妊娠中はシートベルトを着用しないほうが良いと誤解し、事故に
よって母児が重篤な損傷を負うことが多かった。演者は、妊婦の事故実態を
保険請求データから解析し、妊婦が負う損傷重症度が低い際にも、胎児予後
が不良になることを明らかにした。そこで、妊娠ラットを用いた動物実験を
行い、腹部に作用する加速度と胎児予後の関係を検証した。また、わが国で
唯一存在する衝突試験用妊婦ダミーを用いた生体工学的研究を行い、衝突事
故に遭遇した際の妊婦の子宮内圧力変化を計測した。その結果、シートベル
トの着用によってダミー腹部がハンドルとの打撲で受ける外力を低減でき、
その結果、子宮内圧の上昇を抑制できることが分かった。
シートベルトの有効性に関する科学的エビデンスが確立したことや、世論
の高まりを受けて、2008年11月に警察庁は、「交通の方法に関する教則」を
改訂し、自動車に乗車する妊婦は原則として正しく3点式シートベルトを着
用するべきであると明記し、改めてシートベルトの着用を啓発した。しかし、
いまだに誤った知識を持つ妊婦もみられる。今後は、妊婦に対して関係者が
一体となり、科学的エビデンスに基づく正しいシートベルトの着用法を教育
することが重要であろう。
◆本セミナーは解剖学講座・実験実習支援センターの共催で開催いたします。
◆本セミナーは大学院博士課程の講義として認定されています。
※「第106回支援センターセミナー開催のお知らせ」より転載。