■ 演 題: 先制医療を目指したアルツハイマー病治療薬開発に向けて
■ 演 者: 富田泰輔(東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室准教授)
■ 日 時: 平成25年7月26日(金)17:00~
■ 場 所: 基礎研究棟2階 教職員ロビー
<講演要旨>
現在、アルツハイマー病(AD)患者脳の病理学的特徴である老人斑の
主要構成成分であるアミロイドβタンパク(Aβ)の産生および蓄積がAD
の発症に深く関係しているという、「アミロイド仮説」が支持されている。
一方老人斑は非認知症高齢者においても観察されることから老化ととも
に蓄積が観察される現象として捉えられてきた。近年、目覚しく進歩を
遂げたイメージング技術により、脳アミロイド陽性患者は陰性患者に比
べて大脳皮質萎縮の進行が速くAD発症リスクが有意に高いことが示され、
老人斑蓄積と神経変性、すなわちAD発症リスクに深い関係が有ることが
実証された。しかしその一方で、認知症発症後のAD患者に対する抗Aβ療
法の治験では、認知機能の改善には至っていない。すなわち大量の神経
変性を生じた後では、抗Aβ療法は十分な治療効果を有しない可能性を示
している。したがって、AD発症リスクを分子レベルで正しく理解し、リ
スクの高い個人に対して未発症期ないしPreclinical ADの時期に発症を予
見して予防的に抗Aβ療法を行う、先制医療(Pre-emptive medicine)の
必要性が強く示唆されている。Aβは、前駆体タンパクAPPからβ及びγセ
クレターゼによる2段階の切断により生じ、NeprylisinやIDEなどの分解酵
素や、ミクログリアの貪食などにより除去される、「Aβエコシステム」
と呼ぶべき分子メカニズムによって脳内レベルが制御されている。これま
でに我々は生化学、分子細胞生物学に加えて化合物を用いたケミカルバイ
オロジーを利用し、セクレターゼによる切断機構の理解と活性制御法の開
発を推進してきた。同時に様々な遺伝学的リスク因子がセクレターゼ活性
に影響を与えることを見出した。これらの知見を基に、ADの先制医療・
治療法の開発を目指したい。
◆このセミナーは分子神経科学研究センターと実験実習支援センターの
共催で開催いたします。
◆このセミナーは大学院博士課程の講義として認定されています。
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「第98回支援センターセミナー開催のお知らせ」より転載。
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